2011年11月23日
内閣総理大臣 野田佳彦 殿
文部科学大臣 中川正春 殿
内閣官房長官 藤村 修 殿
朝鮮高校生徒への「高校無償化」の即時適用を求める要請書
去る8月29日、菅直人前総理大臣は、文部科学大臣に対し、昨年11月の南北朝鮮の軍事衝突事件の勃発以来停止していた朝鮮高校に対する無償化適用に向けての審査再開の指示を出し、現在も審査が行われております。昨年11月24日の審査停止は、そもそもが、高校無償化法上の根拠を欠く超法規的かつ「外国人学校の指定については、外交上の配慮などにより判断すべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断すべき」とする政府統一見解に反する違法、不当な措置でありました。したがって,遅きに失したとはいえ高校無償化法に基づく審査が再開されたことを、私たちは喜びをもって迎えました。しかし、審査再開から3ヶ月が経過しようとする今に至っても、依然朝鮮高校生たちには就学支援金が支給されておりません。また、私たちの求める2010年度分の就学支援金の遡及支給についても、未だ政府の態度は明らかではありません。昨年の無償化審査停止後、朝鮮高校の生徒たちは、このあまりにも不当な民族差別に立ち向かうために、自らが原告となり国を提訴することを決意し、私たち「朝鮮高校にも差別なく無償化を求めるネットワーク愛知」は、この訴訟を全面的に支えていく決意でおりました。朝鮮高校生徒たちは、公私立学校及びほかの外国人学校の生徒たちと、何ら変わりなく勉学に打ち込んでいるにもかかわらず、昨年4月1日の高校無償化制度開始より,その制度の趣旨である「学びの支援」から排除され続けてきました。政府統一見解にもあるとおり、「すべての意志ある生徒の学びを保障し、家庭の状況にかかわらず、安心して勉学に打ち込める社会をつくる」ことを目的とする高校無償化と、国家間の政治・外交とは何の関係もないはずです。それにもかかわらず、政府が、朝鮮民主主義人民共和国と日本との政治・外交上の関係を問題にして、朝鮮高校生徒たちのみを無償化から排除し続けていることは、日本国憲法、国際人権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約で禁止された民族差別にほかなりません。外国人学校のうち、いわゆるナショナルスクールでは、多かれ少なかれ、日本とは異なる本国の政治的立場に基づく教育がなされている実情があります。朝鮮学校の教育のみを問題視する行為は,明らかな民族差別です。
日本で生まれ,日本で育った朝鮮高校生徒たちには、政治・外交に対して何らの責任がないことは明白な事実です。
また、子どもの権利条約等により、生徒たちには自らの言語と文化を学び継承する権利が保障されています。朝鮮高校において自らの言語と文化を学ぶことが、無償化からの排除の理由となることは理不尽です。この社会を担う一員として私たちは、本来支援されるべき学びの時間を犠牲にしてまで提訴を覚悟した朝鮮高校生徒たちの苦しみと葛藤を、痛みを持って分かち合う社会が形成されることを望みます。
世界には未だ紛争が絶えず、人類が協力して解決していくべき問題は山積しておりますが、それらの問題の解決や平和への道筋は、真摯な学びからこそ出ずるものです。国家間の紛争を理由に、子どもの学びに政治介入し、差別を助長することは決して許されない行為です。朝鮮高校の生徒たちが学ぶ権利の侵害は一刻も早く是正されなければなりません。
私たちは日本政府のこれ以上の朝鮮高校生たちに対する不当な仕打ち、教育を受ける権利への侵害、明白な差別を黙って見過ごすことはできません。
私たちは、日本政府および文部科学省に以下のとおり要請します。
- 文部科学大臣が定めた「規程」に従い、すみやかに朝鮮学校生徒への「無償化」適用を最終決定すること。
- 2010年度の朝鮮高校在籍生徒に対し、2010年度分の「就学支援金」を遡って適用する措置を講ずること。
- 朝鮮高校生徒のみを「無償化」から除外してきた違法性、差別を認め、朝鮮高校生徒や保護者らに正式に謝罪すること。