2020年9月4日
声明
2020年9月2日、愛知朝鮮中高級学校の高級部に在籍していた生徒10名(現在は卒業生)が就学支援金不支給は違憲、違法として提起した国家賠償請求訴訟について、最高裁判所第二小法廷は、原告らの上告を棄却し、上告受理申立を受理しないとする不当な決定を行いました。
この決定は、上告棄却について、「本件上告の理由は、違憲及び理由の不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに」上告理由に該当しないとし、上告受理申立ての理由についても、「本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない」として、本事案についての具体的な理由は一切記載されていません。
名古屋地裁、高裁はいずれも、朝鮮高校の教科書の記述などの朝鮮高校における教育の内容に着目して、本件訴訟が全国で提起されて以降国が主張するようになった「朝鮮高校は北朝鮮・朝鮮総聯から不当な支配を受けている可能性がある」「不当な支配を受けているとすると教育基本法16条1項の『不当な支配の禁止』規定に違反する可能性がある」という主張を支持しました。このような地裁、高裁判決に対し、私たちは、上告理由書において、朝鮮高校の思想・信条を理由として、朝鮮高校生に対する就学支援金不支給を容認するものであり、思想・信条による差別として憲法19条、14条1項に違反すること、民族教育を受ける権利を保障する憲法13条、26条1項にも違反することを主張しました。本件は、当初から、生徒の国籍も在籍する学校の種別も問わず、「教育の機会均等」の実現を目的とする「高校無償化」制度からの差別的な排除の違法性が問われた事件であり、私たちの主張を憲法違反でなく単なる法令違反の主張と解釈する余地はありません。
上告受理申立理由についても、最高裁第二小法廷は、民訴法318条1項に規定する判例違反及び法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められないと判断しました。しかし、本件は、教育基本法16条1項の「不当な支配」を理由に、一部の外国人学校につき、教育内容を媒介にして民族団体との関係性に違法の疑いありと認定し、教育支援制度から除外した初めてのケースであり、「不当な支配」の禁止を教育の自主性原理と解釈してきた旭川学テ事件最高裁判決を含む従来の判例理論と異なる判断をしたものです。
また、名古屋高裁判決は、朝鮮高校に対する不指定処分の理由は、国が主張した「不当な支配の疑い」ではなく高等学校に相当する外国人学校を広く対象と認めた省令ハを削除したことであると認めながら、その違法性については判断せず、行政が恣意的に高校無償化法の給付対象となる生徒を左右できることを認めています。このような高校無償化法の解釈が許されるのか、法令解釈について重要な事項が含まれていることは明らかであり、この点からも上告受理申立理由があることは明らかです。
制度上就学支援金の対象となるとされながら、居住国日本と朝鮮半島の政治情勢に翻弄され中々給付を受けられず、外交上の思惑による省令ハの削除により最終的には制度からも除外されてしまった原告らは、多数者支配の政治の世界とは異なる人権に基づく救済を求めて本訴を提起しました。それにもかかわらず、最高裁の決定は、政府の政治的立場に呼応するように朝鮮高校の教育内容を問題視する下級審判決の是非を問うことをせず、少数者の思想信条における差別を受けない権利、民族教育を受ける権利を踏みにじるものでした。最高裁が上告審における審理を拒否したことは、憲法19条、14条1項等の重要な人権が侵害されている被害の実態から目を背け、少数者の人権の最後の砦としての司法の役割を放棄するものです。
また、学校で生徒、教員、保護者により自主的に行われている教育活動の中身を行政が恣意的に評価し、生徒に不利益を与える教育基本法16条1項の解釈に対して、最高裁が自ら正当な法解釈を行わなかったことは、今後同様の教育への公権力の介入を招くおそれがあり、この点でも最高裁は大きな過ちを犯しています。
私たち弁護団は、教育制度において、特定の教育施設に通う子どもたちが政治的・外交的理由や特定の団体との関係により排除されること、及び行政による差別的行為を追認する最高裁判所の決定に対して、断固として抗議するとともに、教育を受ける権利を差別的に侵害される子どもたちを救済するため、今後も諦めることなく、法的手続を含むあらゆる手段を検討していきます。そして、原告ら及び当事者の方々、原告らの自らの尊厳をかけた闘いに呼応して、それぞれの立場で真摯に日本社会の差別に向き合い、本件裁判を支援してくれた支援者の方々とともに、朝鮮学校の生徒に対する差別が是正され、平等な教育支援が実現されるまで闘い続けることを誓います。
愛知朝鮮高校生就学支援金不支給違憲国賠訴訟弁護団